民泊はコロナ前の状態に戻らないかもしれない
2021年10月10日
皆様お久しぶりです。TOMARESTの安原です。
10月に入ってからようやく緊急事態宣言も解除され、
弊社事務所のある神楽坂(※7月に西新宿から移転しました)の街並みは徐々に活気を取り戻しつつあるように思います。
個性豊かでこじんまりとした飲食店が立ち並ぶ神楽坂通り沿いでは
夕方になるとテラス席のあるお店の多くが程よくライトアップを始め、ちょうどいい気温のこの季節、
通りを歩くたびに「いいなぁ」と思いながら、良さそうなお店をGoogleマップで都度チェックしてしまいます。
肝心の事業の方はと言いますと、
民泊業を主に行う弊社はコロナ前の時点で受入ゲストの7割以上をインバウンド客が占めていたこともあり
入国規制の影響でやはり業績はコロナ前に比べて低いですし、正直まだまだコロナショックの禍中といったところです。
ただ、一部関連業者の中には業績がコロナ前と同等、もしくはそれを上回る水準への回復を見せるなど、
力強く経営を続けている業者もあり、弊社自身もいつまでもコロナのせいにはしていられません。
今回は弊社のそういった会社の再建までのリアルな途中経過を
その当時の状況をしっかり覚えいる状態で残しておこうと思い、このタイミングでブログを執筆しておこうと考えました。
さてさて、今回の記事ではややネガティブなニュアンスを含むタイトルをつけましたが、
現在のコロナ禍の民泊業界の動向を踏まえた今後のプランを淡々とお話ししていきます。
個人的な話ですが、私自身はあまり周りの状況に左右されない性分もありまして(逆にいうと「空気が読めない」タイプとも言えますが)
昨今のように先行き不透明でカオスな状況こそ、コロナ禍が始まった当初から、
提携業者を取り巻くどんよりとした暗い雰囲気に流されず、冷静に、状況を見極めることを心がけてきました。
確かに、このコロナ禍のなかで撤退を余儀なくされた業者もいますし、
知り合い業者からはお付き合い先の企業の担当者が急に連絡が取れなくなったという話もよく聞きます。
確かに弊社の状況を客観的に見ても業績は思わしくなく、苦境に立たされているという考え方もできるでしょう。
しかし、ここ一年ほどの自社物件の運営を続ける中で、
コロナ前には見られなかった民泊における新たなニーズが生まれたこともまた事実であります。
ここ1年間の自社運営物件のゲストの新たな傾向として、以下の二つが挙げられます
⑴パーティールーム民泊
⑵長期滞在民泊
⑴に関してのニーズは、実はコロナ前から少し見られました。比較的大人数で広めの部屋(50平米以上)で主に学生などの若い人のグループで貸し切って使うニーズです。
やはり最近では大学の授業もオンラインですし、人と会う機会が少なくなっている時期すからみんなでワイワイ「発散」する必要があるのかもしれません。
⑵に関しては4週間以上長期で「暮らすように泊まる」というニーズです。利用目的としては
・ワーケーション
・カップルでのお試し同棲期間
・海外帰国者の一時隔離施設利用
などです。
⑴と⑵それぞれメリット・デメリットはあるのですが、弊社では⑵の方に着目しています。
どちらが良くてどちらが悪いといった一般的な話は差し控えますが、
これは後述しますが、弊社は民泊業は不動産業の一種であると考えており、
「民泊を活用した不動産のトータルマネジメントサービス」を打ち出している弊社にとって
⑵のニーズを深掘りする方が適切なポジショニングであると考えているからです。
ちなみにですが、⑴のパーティールーム民泊を全面にプッシュし、
コロナ前とほぼ変わらない売上を上げている業者も中にはいます。
しかし⑴で提供されるサービスはある特定のサービスであり、「イベント業」に近いと考えています。
もちろん、そのサービスの魅力次第では大きな利益を上げることも可能です。
話はそれましたが、上記⑵の長期滞在ニーズを考えていく中で興味深いデータがあります。
民泊物件の仲介を行う世界最大のサイトを運営するAirbnbによる、
民泊ホスト向けの2021年5月ニュースレターによると、次のようなゲストの傾向が発表されました。
・仕事専用スペースを提供するホストの収入は、そうでないホストの収入に比べ14%高い
・基本の調理器具(鍋、フライパン、油、塩&コショウなど)を備えているホストの収入は、そうでないホストの収入に比べ17%高めである。
・長期滞在が増えており、2021年第一四半期の予約のうち、25%が4週間以上の長期滞在
宿泊需要はここ1年ほどで変化してきており、以前よりもゲストは長期で快適な旅行以外の日常生活
(仕事や家族・友人との団欒など)を宿泊施設に求めています。
弊社物件でも50平米以上の大部屋物件を除き、2020年の7月以降はすべての予約が1週間以上となりました。
これらのことから私は
「泊まる」ということと「住む」ということの垣根はどんどん低くなっている。
と確信しています。
また、これはコロナ以前のデータになりますが、自社で受け入れた全てのゲストの平均滞在日数を調べたところ
「4.5泊」という結果となりました。
さらにこれは私の肌感覚ですが、今まで受け入れてきたゲストとのメッセージをくまなく読み返していたところ
民泊を利用する期間中、ゲストはある一つの目的地を訪るだけでなく
「日本にいる友達に会いにいく」・「柔道の合宿に行く」・「日帰りで鎌倉観光に行く」など
様々な目的があり、それらを行う「拠点」として民泊を利用している傾向が見られました。
「日本にいる友達に会いに行く」「柔道の合宿に行く」「日帰りで鎌倉へ行く」ということは
それぞれ独立したイベントですが、実際に宿泊しているゲストはその滞在中の期間にそれ以外にも
「グループ間での交流」や「仕事ができる環境」などの体験も求めているかもしれません。
これは少々大袈裟かもしれませんが、そう考えていくと我々民泊事業者が本来提供しているものは
それぞれのイベントそれ自体ではなく、本質的には
滞在中の一定期間にそれらのイベントを繋ぐ「ライフスタイル」ではないかと考えています。
「点」ではなく、「線」を提供するという考え方です。
その「線」を作り出す「拠点」として、民泊のみならず宿泊施設はニーズに合わせて変化していく必要があると考えています。
もちろん、リゾートホテルや温泉旅館など、その場所に泊まりに行くこと自体が目的となっている宿泊施設もありますが、
民泊は一般的なアパートや戸建てなどの住居をそのまま転用した宿泊施設です。
基本的に遠隔でのゲスト対応である民泊で高級ホテル並の接客を行うことは技術的に難しいですし、
民泊から温泉が湧き出ることもありません。
それよりも、元々の住居であるという強みを活かした「暮らすように泊まる」という
ニーズを満たしていく方が物件の有効活用としては効果的です。
これまでエンドユーザー(物件を利用する側)の視点でお話をしてきましたが、
次は物件のオーナー(所有者)側からの視点で見ていきたいと思います。
我々は元々、民泊というものは不動産運用方法の一種であるという考え方があり、
それぞれ「土地」「建物」がビジネスの源泉となっています。
そのため、そういった「不動産」の有効活用の一つの方法としての民泊運営を行うという意味で
HPのトップページにあるように
「民泊を活用した不動産のトータルマネジメントサービス」を一貫して強調してきました。
さらに昨今の状況における民泊ゲストの動向を踏まえ、
様々なイベントを繋ぐ、ライフスタイルの拠点を生み出す不動産会社目指したいと思います。
そこで弊社は、この9月に宅地建物取引業者免許を取得し、
不動産の仲介・管理業へと新規事業展開をスタートさせています。
このことによって、今までは民泊を中心に不動産を管理・運営してきましたが、一般居住用物件の仲介、
さらには不動産売買の仲介を自社で内包して行えるようになります。
従来から強調している「不動産のトータルマネジメントサービス」をより強固にする体制を整えました。
居住用物件というと「民泊とはサービスの内容が違うんじゃないか?」という意見もありそうですが、
先ほどがら述べている通り、
「宿泊」と「居住」の垣根はどんどん低くなっています。
そしてその根本にある「ライフスタイルを提供する拠点づくり」という考え方は
宿泊用物件でも居住用物件でも基本的には同じであると考えています。
ちなみに私は大手不動産ディベロッパーでの勤務経験があり、さらに独立開業後も不動産仲介会社と業務提携をしていました。
そこで得た不動産会社特有の住まいを通じて暮らしをデザインする考え方や
オーナー視点で不動産を金融投資商品と見た時、収益をもとに不動産価値を算定する考え方など
民泊事業者として居住用物件の考え方はエンドユーザー視点・オーナー視点の双方から大いに参考になります。
さらに今度は自社の経営サイドとしてのファイナンス計画(いわゆる「お金」の管理)の視点になります。
この度、不動産仲介・管理業に進出する目的は以下の二つです
①インバウンドが回復するまで会社を存続させるための収益の確保
②インバウンド回復時のさらなる成長
つまり、会社を存続させるだけでなく、インバウンドの波がもう一度やってきたときの相乗効果も狙うということです。
復旧ではなく、復興が目的です。
私は基本的にはインバウンド需要は戻ってくると思っています。というか「信じている」という方が正しいでしょうか。
ただ、戻ってくるまでの「時間軸」も考慮して計画を練っていく上で、
インバウンド回復がいつになるのか不明瞭ということはゆゆしき問題です。
やはり将来の計画を立てる際は最悪のケースも想定しなければなりません。
そのため、計画を立てる際は「インバウンドは戻ってこない」という前提で考える必要が出てきました。
繰り返しになりますが、私はインバウンド需要は必ず戻ってくると信じています。
しかし、それまでの時間軸を考慮すると、それがいつになるのかの予測ができないので、
「インバウンドは戻ってこない」という前提でのプランも立てる必要があるということです。
このブログには「民泊はコロナ前の状態に戻らないかもしれない」というタイトルをつけましたが、
厳密にいうと、
「民泊はコロナ前の状態に戻らないかもしれない。なぜなら、形を変えて戻ってくる。ただ、それはいつになるかわからない。」
ということになります。
先行き不透明な昨今、こういった時期だからこそ希望的観測に基づく目的地のない計画は禁物です。
しかしかといって、思い切ったチャレンジをためらう必要はありません。
コロナは我々に様々な教訓を与え、様々なことを教えてくれました。
TOMARESTは10月で3期目を迎えます。
不動産会社として更なるグレードアップを図り、三年目の船出としたいと思います。
これからもコロナの脅威はまだしばらくは続くと思います。
しかしこれからも引き続き、粘り強く考え、柔軟に変化をし、そして適切に判断をしていきたいと思います。
TOMAREST株式会社 代表取締役 安原俊勝